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第67話 もうひとりの兄

last update Last Updated: 2025-06-23 09:27:13

「な、何者って……?」

私の背中に冷や汗が流れた。

「とぼけるな。お前本当は妹の姿そっくりに化けた別人だろう? 白状しろ!」

兄が一歩近付いてくる。

「そ、そんなこと言われても…」

後ずさりながら、ジリジリ私は徐々に壁際に追い詰められていく。そんな兄は私を睨みつけながら迫ってくる。

「あ……」

ついに壁に追い詰められてしまった。

ダンッ!!

「ヒッ!」

兄が両手を壁に付き、私は逃げ場を失ってしまった。

「さぁ、答えろ。お前は何者だ? ユリアのフリをして一体何を考えている? 何が狙いなんだ? 本物のユリアを何処に隠したんだ!?」

兄は私を睨みつけながら矢継ぎ早に答えを迫ってくる。無理だ、私は記憶喪失だと言うのに……答えられるはずがない。

その時――

バンッ!

扉が突然開かれ、またしても見知らぬ青年が部屋の中に入ってきた。そして壁際に囲い込まれている私を見ると声を上げた。

「シリウス! お前……ユリアに何をしているんだ!」

大股で近づくとシリウスお兄様の肩をグイッとつかみ、私から引き離してくれた。

「何をするんだ! 兄さん!」

兄さん? それじゃ……この人が長男のアレス?

「よせ! 父から聞いているんだろう? ユリアが馬車事故で10日間も意識が戻らなかったことを。お前は病み上がりの妹に何をしているんだ!」

おお! アレス兄様は2番めの兄より理解力がある人なのかもしれない。

「何が妹だ! あいつは妹のふりをした真っ赤な偽物かもしれないだろう!?」

「何でそんな風に思うんだ? 何処からどう見ても俺たちの妹のユリアじゃないか!」

「そんなこと信じられるか! 大体あいつは記憶喪失で何も覚えていないなんて言うんだぞ? それこそ怪しいじゃないか!」

うんうん、確かに怪しまれても無理はない。記憶喪失なんですと言って、はい、そうですかと納得する人はそうそういないと思う、自分自身で怪しいと思うのだから、他の人から見れば余計怪しく見えるだろう。

「まぁ、待て。落ち着くんだ。シリウス。いくら記憶喪失だからと言ってまるきり何もかも忘れているとは限らないだろう?」

「え?」

アレス兄さんが妙なことをいい出した。

「あ、ああ……確かにそうかもしれないな。人間そう簡単に全ての記憶を無くすはずがないからな」

シリウス兄さんが同意する。

んん?

「よし、それならユリアに簡単な質問をしてみればいいんだ」
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